不安な気持ちはなぜ生じるのだろう?
シニアビジネスの業界で働くようになって16年、『ケアニン』をみていろいろな思いが巡りました。初めて、よく知っている入居者が亡くなった日のこと。気持ちは沈み、モヤモヤしたものがぬぐい去れませんでした。この仕事を続けられるだろうか、とも思いました。映画の主人公が抱いた、看取りへの不安な気持ちがよくわかります。死を目の前にするときの戸惑い、誰もが感じるものでしょう。
ただ、人は必ず死にます。死ぬのは当たり前のことです。ところが、現代日本人は、身近な人が死にゆく姿を家族から遠ざけてしまいました。お年寄りと一緒に暮らしたことのない若者ばかりです。
新鮮な気持ちを持ち続けるために
私たちの仕事は、人が最期の瞬間を迎えるまで生きるお手伝いをすることです。その人生と向き合うことです。ですから、責任を持って仕事をしたと言えるように、サービスの品質を少しでも高めることが私たちの使命だといまでは思っています。
現場からの提案を受けて、笑顔になった瞬間や何かができたときの様子を共有できるように「にやりほっと報告書」を会社のルールにしました。どうしても問題ばかりを報告しがちですが、それでは「入居者、利用者中心」の実現は難しく、こちらの都合を押しつけることになりかねないと気づかされたからです。
人生を最期まで見届けるということ
3年ほど前、よく知っている入居者が末期がんの診断を受け緊急入院しました。認知症の奥さまと一緒に入居されている男性でした。見舞いに行くと「妻のことだけが心配だ。最期まで頼む」と言われました。「引き受けました。安心して」と答え、お互いに笑顔で別れの握手を交わしました。10日ほど後に訃報を受けましたが、暗い気持ちにはなりませんでした。
一人ひとりの人間と向き合うことの大切さを改めて感じています。若い人は、死なんて自分には遠い存在だと思っているでしょうし、死に直面することが不安でしょう。でも、だからこそ、家族で見送る姿をみてほしいし、それが普通のことなんだということを知ってほしいと思います。